地球温暖化と関わりが深い海洋熱波とは?

海洋熱波とは、ある海域の表面水温が極端に上昇してしまう期間を表す言葉で、地球の温暖化とかかわりの深い現象です。

これは海に暮らす生態系の崩壊すら招く影響を与えるとても恐ろしいものなのです。

生き物の生息域の変化

2014~2016年の間に発生した大規模な海洋熱波「ブロブ」。この熱波は海の表面水温を上昇させ、海洋生物に大きな影響を与えました。アメリカ、カリフォルニア州のボデガ海洋研究所の研究により明らかになったのは、彼らの生息域の変化です。

元々はメキシコ、バハ・カリフォルニアにのみ生息していた海洋生物たちがメキシコから北のアメリカ、カリフォルニアの北部や、さらに北に位置するオレゴンなどの地域で見つかったのです。

移動した海洋生物はクラゲ、カニ、ウミウシなどの裸鰓類(らさいるい)、魚類、さらにはイルカやカメにまで及びました。海洋熱波の影響で今まで北の地域では見られなかった生物が新たに37種も発見されたということです。

バハ・カリフォルニア
▲メキシコ、バハ・カリフォルニアの美しい海

例えばコシオレガニは南バハ沖に生息していましたが、ブロブの影響によってはるか北のオレゴン州、ニューポートで発見されました。なんと海水の表面水温は3.5℃~7℃も上昇。さらにバハの主要な海産物であるイセエビも、この水温上昇の影響でボデガ湾へと移動してしまったのです。

研究者はこのように海水の温度に伴って生き物が北上することは、その種が根強く生き残るために必要なことだと述べています。




ウミウシ
▲鮮やかなウミウシ。水温が下がると生きてはいけない。

ところがこのように移動していった生物は短命なのです。例えば色鮮やかなウミウシたちは、水温が下がるとたちまち死に絶えてしまいます。

そんな中でも北部へと移動し、そのまま生活の場を見つける種もまた存在します。イソギンチャクやカニダマシ、クモヒトデ、フジツボなどはもともと南のボデガ湾に生息していましたが、現在ではカリフォルニア北部においてもなじみ深い存在になっています。





イルカに与えた深刻な影響

スイス、チューリッヒ大学による研究では、海洋熱波がイルカに与えた深刻な問題が明らかになりました。世界遺産にも登録されているオーストラリアのシャーク湾では、2011年の海洋熱波により1年間で4℃以上海水温が上昇。

その影響で湾の生態系を保っていた豊富な海藻が失われました。チューリッヒ大学の研究員たちはこの環境へのダメージがイルカたちにどのような影響を及ぼしているのかを調査し、その結果2011年の熱波の影響でイルカの生存率が12%低下していることが判明したのです。

繁殖に成功したイルカの数も減ったまま元の数に戻らず、その原因としては親イルカが育児放棄をしたり、子どものイルカが大量死したり、性成熟が遅れたりと様々な可能性が混在している可能性が考えられています。


イルカ
▲海洋熱波がイルカの子育てにも影響しているかもしれない。

本来、環境の変化に順応しやすいと言われる海洋哺乳類ですが、このような突然の熱波には大きな影響を受けています。

地球温暖化によりもたらされる海洋熱波はこのように食物連鎖の下層に位置する生物だけでなく、ほかのどんな生き物にでも影響を及ぼす可能性があるということが今回の研究で明らかになりました。

生き物たちに様々な影響を与える海洋熱波は、気候の変動に伴って将来的にはより頻繁に発生する可能性があると言われています。温暖化が進めば、陸でも海でも様々な問題が生じ、生き物たちを苦しめてしまうことを私たちは知っておくべきでしょう。
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